業務移行は新システム導入による現行業務からの脱却と、新業務で運用できるようにするための活動のことを言いますが、業務移行には「システム利用ユーザ向け」と「保守・運用メンバー向け」の2種類があります。
そしてシステム利用ユーザ向けの業務移行は大きく「業務移行準備」「トレーニング」「本番移行」の3つに分けられます。
当記事ではシステム利用ユーザ向けの業務移行におけるトレーニングの準備でやるべきことを解説します。
トレーニングを行う目的
システム導入プロジェクトにおけるシステム利用ユーザ向けのトレーニングの目的は、本稼働後すぐに新しいシステムで業務が開始できるように、画面の操作と業務の一連の流れを確認するために行います。
つまり、トレーニングでは画面の操作説明だけでなく、システムを使わない業務も含め、一連の流れを滞りなく行えるようにトレーニングを行う必要があります。
トレーニングの実施にあたっては、教材や開催形式、トレーニング対象のユーザなど、様々なことを事前取り決めてから開始されます。
また、特にトレーニングというタスクは、プロジェクト参画者ではなく、通常業務を行っている人に参画してもらう必要があるため、いつどこでどれくらいの時間が必要なのかは事前に伝えておくことが重要です。
これを行うためにも、トレーニング計画書を作成し関係者と合意をしておくことが大切です。
トレーニング計画策定
規模にもよりますが、システム導入プロジェクトにおけるトレーニングの計画には、主に以下の項目をまとめておきます。
- 目的
- トレーニングスコープ
- プロジェクト側の体制・役割
- スケジュール
- トレーニング対象ユーザ
- 教材
- 開催形式
- トレーニング環境
- コミュニケーションプラン
- 理解度チェック方法
トレーニングの計画策定については以下の記事で詳細を解説しております。
冒頭でも説明した通り、トレーニングは通常業務を行っているメンバーとの調整が重要になります。
急にトレーニングをやらせて下さいと言っても、本業とのスケジュール調整だけでなく予算・人員などの調整も必要になるため、トレーニング計画は早めに策定し関係者との合意を得るようにしましょう。
トレーニングマニュアルの作成
トレーニングを行うためには、必ず教材となるマニュアルが必要になります。
このマニュアルはトレーニング時だけでなく、本稼働後も使っていくことになるため、トレーニングを通して品質のブラッシュアップも行うようにしましょう。
トレーニングマニュアルは大きく「操作マニュアル」と「業務マニュアル」に分けられます。
操作マニュアル
操作マニュアルはその名の通り、システムの画面の操作方法について説明したドキュメントです。
画面一つ一つ対して以下のような内容を記載していきます。
- 画面の用途
説明対象の画面は何をするためのもので、誰がいつ使う想定なのかを説明します。
これを説明することで、後述する項目説明やボタン説明が理解しやすくなります。
また、全体像が分かるようにシステムフローを用意しておくと、どの位置付けにある画面なのかが分かるため有効的です。 - 全項目の説明
画面上にある全項目の説明を記載していきます。
良くある悪い例として、項目名をそのまま説明書きとして使ってしまうことがあります。
それでは、その項目が何に影響するのかまで分かりません。
各項目の説明書きをする際は、その入力値がどこに影響するのかまで記載するようにしましょう。
また、システムから出力される帳票の項目についても、画面と同様に説明を記載するようにしましょう。 - 全ボタンの説明
画面上にあるボタンについてもすべて説明が必要です。
これも、このボタンはどこに影響するのかまで記載することで、よりイメージし易くなります。
例えば「保存」ボタンの説明として、「データを保存する」だけでは不十分である場合があります。この例で言えば、「データを保存することで、承認者へメールが飛び、承認画面にデータが表示されるようになる」など、対象のデータを保存することで、他の機能にどう影響するのかまで記載するようにしましょう。
業務マニュアル
操作マニュアルがシステムや帳票などの画面上のマニュアルである一方で、業務マニュアルはシステムとシステムの間も含めた新しい業務のやり方を説明したマニュアルとなります。
業務マニュアルでは、主に以下のような内容を記載していきます。
- 業務概要
まずは、全体の業務の中のどの部分のマニュアルなのかを明確にするために、対象とする業務の位置づけを説明します。
位置づけを明確にした後は、それぞれの業務がどういう業務なのかを5W1Hなどのフレームワークを使って説明します。
・When:いつ行われる業務なのか
・Where:どこで行われる業務なのか
・Who:誰が行う業務なのか
・What:何を行う業務なのか
・Why:なぜ行う業務なのか
・How:どのように行われる業務なのか
もちろん上記すべてが必須というわけではありませんが、業務の位置づけと合わせて説明することでマニュアルを見るユーザの理解が早くなり、後から見たときも分かり易くなります。 - 業務フロー
続いて、それぞれの業務の業務フロー図を載せます。業務フロー図を描く時のポイントは、その業務の登場人物(もしくは部署)であるアクターを縦軸、時系列を横軸にして、業務とシステムの両方合わせて流れを表現することです。
業務フロー図の作り方は以下の記事で解説しています。
- 現行業務との比較
作成した新しい業務フローとこれまでの業務フローを比較し、変化したところを重点的に説明します。
ユーザの視点で考えると、これまでの業務がどのように変わり、どうシステムを使っていくのかが知りたい為、変更点を業務フローから1つずつ抜き出し具体的に記載していきます。
中には新しいシステムを導入したことによって作業が増えてしまう業務もあります。その場合は、理由を明確にしてユーザに納得してもらえるよう丁寧にトレーニングを行うことが重要です。 - 業務変更点一覧
最後は業務の変更点を一覧形式にします。一覧にしておくことで後で見返したときに、どこがどう変わったのかが短時間で分かるため、目次代わりに作成しておくことをお勧めします。
社内規定等の更新
新しいシステムを導入すると、これまでの業務が刷新され全く新しい業務へと変わる場合があります。
その時に、社内規定を変える必要性が出てくることがあります。
また、ユーザ登録申請や経費申請などの各種申請書が変更されることもあるため、社内規定にリンクがつけられている場合は、それを差し替えるなどの細かい対応が必要になります。
これらの変更点は稼働前にユーザに伝えることが必要となるため、何が対象となるかを洗い出しておき、説明できるようにしておきましょう。
さらに、これらはすべて稼働前に行う「本番切替」で切り替え作業を行うことになります。そのため、事前の洗い出しと合わせて切替の手順も整理しておく必要があります。
まとめ
システムを導入プロジェクトにおけるトレーニングは比較的イメージし易いタスクですが、ユーザも多く関わるタスクとなるため、入念な準備が必要となります。
まずは、計画書を作成しユーザも含めた関係者全員の足並みを揃えることが何よりも重要です。
また、ユーザにも分かるようなマニュアルを作ることは意外と難しく、一度で完全な物を作ることはできないため、トレーニングを通してブラッシュアップしていくことが大切です。
本番切替後、新しいシステム・業務を円滑に進めるためには、このトレーニングの精度をどれだけ高められるかによるため、各種タスクを丁寧に進めるようにしましょう。